2014年8月23日土曜日

【和訳】FKA Twigsが「オルタネティブR&Bなんてファック!」と語った理由



こんにちは!

今回の記事は、8月11日に1stアルバム『LP1』をリリースしたばかりのFKA Twigsというアーティストについてのものです。


彼女はジャマイカ系の父とスペイン系の母の間に生まれた現在26歳の女性です。
シンガーとしてのみならず、ソングライター、プロデューサーとしても音楽的才能を発揮しており、今回のアルバム以前には

『EP』(自主リリース、2012/12)  ・『EP2』Young Turks、2013/9)

というシンプルなタイトルの2枚のEPをリリースしています。


また、『EP2』では、異形ともいえるサウンドのmixtape『&&&&&』が高い評価を受けカニエ・ウェストの『YEEZUS』にも参加した新進プロデューサー、Arcaとガッチリタッグを組み、多くのメディアから高い評価を受けました。このEPは本当に傑作だと思います。



彼女の音楽を言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、神々しささえ感じるような幽玄なボーカルと、グニャグニャと形を変える無機質なビートとの組み合わせが魅力だと思います。

ドキリとするようなアートワークやビジュアルの見せ方も魅力的なアーティストですので、ぜひPVと合わせて、代表曲「Water Me」を聴いてみてください。





ちなみに上のビデオが「何か怖い…」「ムリ…」という人は(僕も久しぶりに観たらイケるかなと思ったんですけど怖くてムリでした)、最新シングルの「Two Weeks」のPVなら安心ですので、こちらをご覧ください。





1、2曲でもこうしてビジュアルイメージと合わせて見ていただくと、彼女の魅力や方向性が伝わりやすいのではと思います。

さて、このFKA Twigsの不思議な音楽、英米では(日本でもかな)他の新進アーティストと合わせて「オルタネイティブR&B」と括られることが多いのですが、新作アルバムについての英メディア「The Guardian」でのインタビューで、彼女はそうして「オルタネイティブR&B」と形容されることに対しての違和感を露わにしました。

今回和訳したのは、その部分を抜粋して論評した米音楽メディア「Pigeons & Planes」の記事です。

本来ならば「The Guardian」の元記事を取り上げるのが筋ですし、センセーショナルな部分だけ抜粋して取り上げた記事は曲解を生みやすいのでよくないとも思うのですが、
この記事はTwigsのインタビュー部分以外の、前文・後文におけるライター氏の「今日のジャンル論」みたいな部分もおもしろく、共感するものがあったのでこちらの記事を和訳してみました。

いつもながら前置きが長くなってしまったのですが、この下からが記事の和訳部分です。




FKA TWIGS SPEAKS OUT AGAINST BEING LABELED “ALTERNATIVE R&B”






First of all, let’s all just agree that genre classification in 2014 is stupid. 
Music is such a melting pot that there are no clear lines anymore, but we use genre labels because it’s the easiest way we have of speaking about something and giving people an idea of what it sounds like. 
Maybe it’s just lazy, but it certainly can be helpful in communicating about music without just using a bunch of vague adjectives that literally describe the sounds in the songs.

初めに言っておきたいのだけど、2014年の今日において、「ジャンル分け」なんてものはひどくばかげた行為だ。
音楽は様々な要素が複雑に混ざりあったもので、はっきりしたボーダーラインなんて存在しない。
ただ、それでも今もなお僕らがジャンル名を使って音楽を語るのは、他人に「この音楽がどういうものか」というイメージを伝えるにはそれが一番簡単な手段だから。
それはきっと怠慢なのだけれど、音楽についてコミュニケーションしようとするとき、細かな音についての形容詞をいくつもいくつも並べて語るようなわかりづらさを避けるには、それがいまだに一番有効な手段であることも事実だ。


In an interview with The Guardian, the topic of alt-R&B came up and FKA twigs made her opinion on the matter very clear:


『The Gurdian』でのインタビューで、「オルタネイティブR&B」についての話題が出た際、FKA Twigsは、そのジャンルに入れられることへの彼女の違和感を明確に語った。


It’s just because I’m mixed race. When I first released music and no one knew what I looked like, I would read comments like: ‘I’ve never heard anything like this before, it’s not in a genre.’ And then my picture came out six months later, now she’s an R&B singer. I share certain sonic threads with classical music; my song ‘Preface’ is like a hymn. So let’s talk about that. If I was white and blonde and said I went to church all the time, you’d be talking about the ‘choral aspect’. But you’re not talking about that because I’m a mixed-race girl from south London.


「そう言われるのは私が混血だから。
私の音楽が初めて世に出たときは、まだ誰も私の外見を知らなかった。そのときは"こんなタイプの音楽は聴いたことがない。これはどのジャンルにも当てはまらないものだ"なんて言われていた。それなのに、半年もして私の写真が世の中に出回るようになると、すぐに「ああ、R&Bシンガーなんだね」と言われるようになった。
私の音楽には、例えばクラシック音楽からの影響だっていくつもあるの。私の「Preface」という曲は賛美歌のように聴こえると思う。だけどそんな話は誰もしない。
もし私が金髪の白人で、インタビューで「いつも教会に通っていたわ」と語ったなら、同じ曲を聴いてもみんな「聖歌隊からの影響を感じるね」なんて言ってたはずよ。だけど今の私に対して誰もそんなことは言わない。それは結局、私が南ロンドン出身の混血の女の子だから、というだけよ」


She adds:


彼女はさらに付け加える。


I love annoying sounds, beats, clicks. Kakakakaka! I don’t see anyone else doing that now. It’s got loud noises in there, the structures aren’t typical, it’s relentless. It’s like punk; fuck alternative R&B!


「私はおかしな音も、ビートも、クリック音も、「KaKaKaKaKa!」なんてサウンドも大好き!今そういうことをやっている人って他にいないと思う。とてもノイジーで、定型に捕らわれない、情け容赦ない音楽。それはある意味ではPunkみたいなものだと思う。オルタネイティヴR&Bなんてファックよ!」



We’re sorry, twigs.


Twigs、申し訳ない。

(訳注:この記事を掲載したサイトPigeons & Planesは、この数日前に「FKA Twigsが注目される12の理由」という記事で「彼女は実験的なR&Bの最前線にいる」と書いていたのでした)



For us, it wasn’t about race. The cast of characters experimenting with sounds and styles traditionally associated with R&B is a diverse one. When we used the term R&B, it was mostly because of the vocals and the melodies. Where pop and rock music have always had more of a repetitive, rigid vocal structure, the flourishes of varying melodies and abandoned format is what led us to use the word R&B when talking about FKA twigs.


ただ、僕らはもちろん人種を理由に彼女を「R&B」と定義したわけではない。

歴史的に見ても、R&Bというジャンル名は様々な音や要素と関連付けられてきた。僕らが彼女の音楽を「R&B」だといったのは、彼女の歌唱とメロディーラインの魅力においてだ。
例えば多くのポップスやロックは、もっとシンプルで、定形的な歌唱の繰り返しだ。常に変化し躍動している彼女の歌唱と、定形化から逃れ続けるようなメロディーラインが、僕らが彼女の音楽を語るにあたって"R&B"というジャンル名を使った理由だ。

But it’s true that race, location, image, presentation, and association with other acts can sometimes affect genre classification more than the music itself, and that can be harmful for artists who don’t deserve to be oversimplified for the sake of music writers’ desire to lump things together. For R&B, a genre with a deep history and constantly shifting connotation, it’s even more complicated.


しかし人種や出身、ルックス、イメージ、そして他のアーティストとの関係などが、ときに音楽そのものよりもジャンル分けに影響するのも事実だ。
それは何でも一括りにしたがる音楽ライターのエゴであり、形骸化を好まないアーティストたちにとっては害悪でしかない。
R&Bというジャンルひとつをとっても、そこには長い歴史と、いくつもの変遷があり、それはとても一言では言い表せないほどに複雑なものだ。

Anyway, labeling music is hard these days, and maybe we should all think about abandoning it altogether. I prefer the “kakakakaka!” description far more than any genre classification anyway.


とにかく今日、もう音楽を単純なジャンル分けで括るのは非常に難しい。そしておそらく僕たちは、「ジャンル」というものを放棄しなければいけない時期にきているだろう。

僕はどんなジャンル名よりも、「kakakaka!」という表現の方が遥かに魅力的だと思う。


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この記事は米音楽メディアPigeons & Planesに掲載されたライターConfusion氏(*)による記事を和訳したものです。

http://pigeonsandplanes.com/2014/08/fka-twigs-on-alternative-rnb/

(*=ライター名ですが、主要記事を多く書かれてるし、Pigeons & PlanesのTwitterアカウントのユーザー名も「Confusion」なので、これは勝手な想像ですが"編集部"名義みたいなものなのでしょうか…)